英語になると急に言葉が出なくなる。自信が持てなくて黙ってしまう。適切な言い方かどうかが気になって、自由に話せない。多くの人がこの「見えない壁」に苦しんでいます。ところが、スペイン語でもフランス語でも、英語以外の言語を学ぶと、一種の「解放感」というか「自由の感覚」があります。そして、翻って「英語には制約が多かったな」と感じるのです。
英語を止めている「正解思考」
元より英語が学校の必修科目であり、入学試験の必修科目でもあることから、私たちは自分の英語を「誰かに評価される」ことに慣れきってしまっています。そして社会に出てからも、TOEICなどで、正解しスコアを上げることを求められることがあります。更に、「ネイティブはそんな言い方をしない」といった「ネイティブ表現」、「こういう場面にはこういう表現がふさわしい」といったシーンに応じた「ビジネス英語」、スピーチやプレゼンテーションのテンプレートなど、準拠しなければならない枠組みは枚挙に暇がありません。
実は、このような「自分の外に準拠すべきものがあって、自分は評価される存在であり、自分の頭で考えたことは当てにならない」という私たちが無意識に捉われている「ものの見方」こそ、自信を失わせ、発言をためらわせ、「自分は英語ができない」と思わせているものの正体なのだと思います。私は、この「確かなものは外にあって、自分が考えることは当てにならない」という意識を「正解思考」と呼んでいます。
「仮説思考」という解決策」
では、私たちの英語を止めている「正解思考」を克服するにはどうした良いのでしょうか。私が皆さんにお勧めしているのは、「仮説」という武器を手に入れ、「仮説思考」で語学に取り組むことです。「仮説思考」という言葉は、ビジネススキルとしての思考法の文脈で語られることが多いですが、語学の世界でも、いや語学の世界でこそ、大いに威力を発揮します。
仮説思考が有効な理由
最初に立てる仮説は、推測でも想像でも、場合によっては全くの当てずっぽうでも構いません。それを実地に試してみて、違っていたら変えれば良い。それも、より良い仮説が分かればそちらに乗り換えればよいですが、分からなければもう一つ当てずっぽうの別の仮説を試してみれば良いのです。そうして徐々に仮説は、「より良い理解」に近づきます。言葉というのは、「正解」がない世界です。ただ、「間違い」はあります。また、「より良い表現」もあります。仮説を立てて検証するプロセスを繰り返して、「間違い」を排除し、「より良い表現」を磨いていくことが、語学に取り組む最善の方法なのです。
「仮説思考」のもう一つのメリット
「仮説思考」にはもう一つの大きなメリットがあります。それは、いつまでもずっと思考をレベルアップし続けていけるということです。「正解思考」では、思考プロセスは「正解」にたどり着いたら終わりです。実際には、全くの「正解」にたどり着けることは稀で、「一番正解に近いと思われる答え」にたどり着いたところで終わりになるのが普通ではないでしょうか。しかし、今現在全てのデータがある答えが「正解」であることを指示していたとしても、次に入ってくるデータがその答えを否定する可能性は常に残ります。単純にそのデータを見落としていたというケースもあるでしょうし、何らかの事情の変化があったことをそのデータが示唆しているケースもあるでしょう。
そんな時、一旦「正解」とした答えを見直すのは容易ではありません。一方、「仮説思考」であれば、そのデータに適合するように仮説を修正すれば終わりです。新しい仮説を否定するようなデータが更に出てきたときも同様です。このプロセスをいつまでも繰り返せばよいのです。
語学に王道なし
さて、言葉は生き物です。その姿は限りなく多様で、しかも絶えず変化しています。そして、「より良い表現」や「より的確な言い方」は常に存在しますが、「正しい言い方」というものはありません。しかし、「間違った言い方」は存在します。「間違った言い方」を排除し、「より良い表現」を追求する努力を限りなく継続する中で、私たちの言語能力は鍛えられ、レベルアップしていくのです。それは母語でも外国語でも全く変わりません。「この道を真っ直ぐに進んだら必ずできるようになる」というような王道は、語学にはありません。スペイン語にもフランス語にも他の全ての言語にもありません。英語にだけあるはずがありません。
私自身の経験
私は50歳まで英語に無縁な生活を送りましたが、伊豆大島でのプロジェクトの成功を機に英語と関わり、何度も国際学会のプレゼンテーションで喝采を浴び、ニューヨークで政府系機関の所長として勤務し、60歳までにスペイン語、フランス語、イタリア語を習得して、現在ラテン語を勉強中です。結果だけ見れば、10年間でこれだけの成果を得たのは驚くべきことに思えるかもしれません。でも、これらは全て、自分で考え、やってみて、確かめるという地道な仮説検証プロセスを弛まずに繰り返してきた結果なのです。
みなさんにもできないはずはありません。もしあなたが、英語から自由になりたい、評価を恐れずに話したい、自分の頭で考えて英語を使いたいと感じているなら、「仮説思考」は、必ずや大きな力になってくれます。

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