「英語がペラペラになる瞬間って本当にあるのか?」これは多くの学習者が抱く疑問ですが、私自身、米国にいた時に一度だけ、「何も考えずに、次から次へと英語が口から出てくる」という状態を経験したことがあります。今回は、その時の経験とそれについて自分が考えたことについてお話しします。
私の外国語の話し方
私は自分が、英語、スペイン語、イタリア語、フランス語のいずれの言語においても、いわゆる「ペラペラ」と言う状態だとは思っていません。いずれの言語でも、日本語を介さずに直接その言語で考えることはできるのですが、「立て板に水」の状態からは程遠く、考えて言葉を選びながら、比較的ゆっくり話すことが多いです。もちろん、用事をこなすだけの短いやり取りであれば、特に考えたりしませんが、ある程度以上内容のあることを話す場合は、まあ、話すのが早い方ではありません。
これには、私が英語を使うようになった事情も関係しています。東京都大島支庁で国際優秀つばき園の認定を取ろうと、英国から来る審査員のジェニファーさんや国際つばき大会の参加者の皆さんとお話ししていた時に、私は既に組織のトップである支庁長でしたし、ニューヨークではJapan Local Government Centerの所長でしたから、どうしても相応の方を相手にすることになるし、「代表者」の立場で話すことになるので、それなりにしっかりした内容のある音を言って、信頼感を持ってもらわなければならない立場にありました。そうなると、どうしても流暢に話すよりも、丁寧に意味のあることを話すよう心掛けるようになります。
Reception会場での出来事
ただ、過去に一度だけ、何も考えずに次から次へと英語が飛び出して、まくしたてるような話し方になったことがあります。それがいつのことだったかは判然と覚えてはいませんが、場所はニューヨークのJapan SocietyでのReceptionの会場だったことは確かです。Japan Societyは日米文化交流のための組織で、館内にかなり大きな展示スペースがあり、定期的に日本文化に関わる企画展を行うのですが、その展示初日に日米の関係者を招いてReceptionを開くのが常になっていました。日本の全地方自治体を代表する事務所の所長だということで、私は毎回招待されていました。
その時、どういう経緯でその米国人と話すことになったのかは覚えていません。ただ、途中で「日本人にしては、英語が上手ですね。どうやって習得したんですか?」と聞かれて、そこから「スイッチが入ってしまった」ことは良く覚えています。大島で国際優秀つばき園の認定を取るプロジェクトに携わったこと、英国人の審査員に対応するために必死で準備したこと、それがきっかけで英語を日常的に使うようになって今に至ることなどが、自分でも驚くほど何も考えずに口から出てきます。さらに、椿についての質問を受けると、椿が日本原産の植物で世界に伝播したこと、今では世界中に愛好家がいること、そして国際つばき協会という団体がどんな活動をしているのかまで、ほとんどまくしたてるように喋ったのを覚えています。聞いていた米国人が目を丸くしていたことは、言うまでもありません。
その方は翌朝早々に、交換した名刺を元にメールをくださって、改めて「Amazing conversation」に対する称賛を寄せてくださいました。実は話している時は知らなかった(話し終えて別れ際に名刺交換をしたので)のですが、米国でもかなり名の知れた会社の幹部の方でした。
「ペラペラ」になるための努力
その時は自分に起こったことに自分で驚きながら、この現象が他の話題でも起こるようになれば、いわゆる「英語がペラペラ」になるということなんだろうな、と思ったものです。考えてみれば、大島でのプロジェクト、国際優秀つばき園、そして椿そのもののという話題は、私が50歳で英語に取り組み始めてから、一番頻繁に、繰り返し繰り返し語ってきた話題であり、一番話し慣れていた話題です。従って、その話題で一度「ペラペラ」状態に陥ったからとて、他の話題も同程度に何も考えずに口から英語が出てくるようになる訳がないということは、容易に推測がつきます。ただ、その一方で、椿の話題と同程度に話し慣れてくれば、他の話題でも順次「ペラペラ」状態が出現するであろうことも、間違いのないことに思われました。
でも、私は結局、そういう方向での努力をしようとは思いませんでした。その時の状態で、米国で仕事をするのに不自由は感じていませんでしたし、自分の立場では、限られた話題をオートマティックに話せるようになるよりも、米国の自治体関係者をはじめとする幅広い相手との間で、多様な話題で充実した話ができることの方が、より求められていると判断したからです。
この経験からの教訓
それでも、一度そういう経験をしたことは自分にとって自信になりましたし、非常に良い教訓を与えてくれました。一番良い教訓は、「考えなくても口から英語が飛び出してくる」状態になることは可能だけれども、一度に全ての話題で可能になる訳ではない、ということです。そういう意味での「ペラペラ」状態になりたければ、できるだけ話題を限定して、一つのことを徹底的に話せるようにした方が良いのです。
そして、話題を限定することは、必ずしも「ペラペラ」状態を目指さない場合でも、非常に有効です。私は常々、人に「外国語の上達のコツ」を聞かれると、「多くのことを話そうと思わないで、一つのことを徹底的に話せるようにすること」と答えています。何故なら、同じ話題に関する表現であれば、必ずしも自分で意識しなくても、頭の中で構造化・体系化が起こるからです。相互に関係のないバラバラの知識を大量に覚えることは不可能ですが、一旦構造化・体系化された表現は非常によく定着しますし、更に応用がききやすくなるからです。
私からのアドバイス
私は、基本的に「ペラペラ」を目指して努力することを全くお勧めしません。ただ、何を目指すかはそれぞれの価値観の問題ですので、無理に止めもしません。ただ、一つだけ確実なのは、「ペラペラ」の「ふりをする」ことや「ペラペラ」な人の「真似をする」ことで、そこに到達しようとするのは、絶対に不可能とは言わないまでも、大変な遠回りだということです。語学はやはり最終的には、「理解」の問題です。「形をまねる」より、小さなこと僅かなことを確実に「理解する」方が、ずっと近道なのです。

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