英文法と文法学習

執筆者:

カテゴリ:

文法学習は外国語の要

 最初に、文法学習がなぜ外国語の習得に不可欠なのか、文法というものをどのように考えたらよいかについてお話しします。
 英語の世界では何かと評判が悪いのが文法です。「日本の英語教育は文法と読解が中止で、実用的な英語力が育たない」などという批判をよく耳にしますし、英会話スクールなどで「文法の勉強なし」を謳っているところも多い印象があります。
 しかしながら、翻って英語以外の言語の勉強を0から始めようと考えたら、文法学習なしではどうにもならないことなどすぐに分かります。実際私も、スペイン語、フランス語、イタリア語、ラテン語とも、全て文法テキストを買ってきて勉強することから始めました。

文法の構造化

 文法テキストには質の良し悪しがあって、スペイン語やフランス語のように話者の多い言語では良質なテキストが多いのですが、イタリア語では質・量ともにがくんと下がり、ラテン語の時は日本語の良いテキストが見つけられず、主として英語の標準的な文法テキストであるWheelockを使って勉強しました。ただ、どんなに良いテキストでも1冊で完璧という訳に行きませんから、同時に2種類以上のテキストを並行して使いました。
 複数の文法テキストを比較対照しながら勉強することには、実は非常に大きなメリットがあります。それは、その言語の文法を自分なりに構造化・体系化できることです。そして、この構造化・体系化こそが文法学習の最大の目的なのです。
 この目的のためには、文法学習は短期間に集中してやった方が良いし、文法学習の期間中は、それ以外の一切のことをやめた方が良いです。単語も覚えない、発音練習もしない、読解や作文は必要最小限にする、そして4か月程度で文法学習を終わらせる、これが一番効果的なやり方です。この点に関して言えば、学校の文法教育には問題なしとしません。学習の順序もあまり体系的でない上、他のことをやりながら長期間かけて学ぶので、効果が出にくいことは確かです。ただ、だからと言って文法自体が不要だということにはなりません。

文法学習の役割

 さて、それでは文法学習はなぜ重要なのでしょうか。自分の中で、ある程度しっかり文法の構造化・体系化ができると、知らないことについても見当がつきやすくなります。良く分からないことを読んだり聞いたりしたときに「大体こんなことを言っているのではないか」と推定ができますし、自分で話したり書いたりする時に、「こんな感じで言えば良いのではないか」とイメージが湧きます。あとは、漠然とした推定やイメージを仮説の形にまで整えて、やってみて検証すれば、仮説検証サイクルに乗ってきます。つまり、文法は、仮説検証型の外国語習得を起動させるために、絶対に必要なのです。

英語の過去時制の分かりにくさ

 多言語文法学習には、他のメリットもあります。例えば、英語の過去時制がなぜ分かりにくいのか。他のヨーロッパ言語と比べると、その理由がすっきり見えてきます。

ヨーロッパ語の過去時制

ヨーロッパ言語で「時制」は表現の要ですが、そのあり方は言語によってかなり違います。一口に「過去」と言っても種類があり、私が学んだ言語の基本的なパターンは、フランス語とイタリア語のように「複合過去」と「半過去」からなる形です。「複合過去」は、英語の「現在完了」にほぼ相当する複合型(ただ、haveの代わりにbe動詞を取る動詞があって、もう一段複雑です。)で、その出来事が過去に起こったことを単純に表すとともに、過去の経験を表します。これに対して半過去というのは、過去の進行中の出来事、過去に反復された出来事などを表します。

 スペイン語には、「点過去」と「線過去」があり、概ねフランス語の「複合過去」が「点過去」、「半過去」が「線過去」に当たりますが、「点過去」は複合型ではなく独自の活用があります。そして、「点過去」とは別に複合型の「現在完了」も存在し、その分「点過去」は「終わってしまったこと」のニュアンスが強くなります。

フランス語の複合過去:J’ai mangé.
半過去 :Je mangeais.
スペイン語の点過去 :Comí.
線過去 :Comía.

ラテン語には複合型の時制はなく、過去は「完了」(「複合過去」、「点過去」に相当)と「未完了」(「半過去」、「線過去」に相当)で構成されます。他に過去完了と過去未来があるのですが、話がややこしくなり過ぎるので省略します。

英語の特徴

 さて、英語です。英語には、「半過去」、「線過去」、「未完了」に該当する時制がありません。しかし、過去形のほかに「現在完了」があります。その結果、本来水と油のはずの「現在完了」が「半過去」の役割を担うと同時に、過去の継続中の行為については、「過去進行形」という形が作られて、文法的にすっきりしない複雑な形になり、初めて学ぶ人には大変分かりにくくなってしまっているのです。これは、英語の世界の中だけで頭をひねってうんうん言っていても解決するものではなく、こうして他の言語と比べてみることで、初めてすっきり頭に入ります。

多言語の観点から見た英文法

 それでは多言語の観点から、その他の英文法を点検して、何が見えてくるか調べてみましょう。最初にお断りしておきますが、私は文法学者でも言語学者でもありません。これから書くことは、いくつかの言語を習得してみた結果を元に、私なりに英文法の特徴を整理した「仮説」です。このように考えておけば、捉えどころのない英文法が、少し理解しやすくなるのではないかという私からの提案だと受け取っていただければ幸いです。

人称活用がほとんどない

 中学校で英語を習い始めた時に「三・単・現のs」に戸惑った方が多いのではないでしょうか。何故三人称・単数・現在の時だけこんな例外があるのだろうかと。そして、どれだけ英語が上達しても、ついつい見落としがちになるのがこので、英語学習者にとってなかなか厄介な存在です。これは、英語だけをやっていても全く分からないのですが、他のヨーロッパ言語を学習してみると、一発で謎が解けます。実は、ヨーロッパ言語においては全ての人称の単数・複数で活用が違う方が、むしろ一般的なのです。そして、それは全ての時制において成り立ちます。幾つか例を挙げてみれば、

(フランス語aimerの直接法現在)
一人称単数aime、二人称単数aimes、三人称現在aime、
一人称複数aimons、二人称複数aimez、三人称複数aiment
(スペイン語poderの直接法点過去)
一人称単数pude、二人称単数pudiste、三人称現在pudo、
一人称複数pudimos、二人称複数pudisteis、三人称複数pudieron
(イタリア語partireの直接法未来)
一人称単数partirò、二人称単数partirai、三人称現在partirà、
一人称複数partiremo、二人称複数partirete、三人称複数partiranno

英語の場合は、このような人称活用をほとんど失ってしまい、be動詞と「三・単・現のs」だけに僅かに残っているに過ぎないのですが、むしろヨーロッパ言語全体で見れば、人称活用はあるのが当たり前なのです。

不定詞と助動詞

 人称活用がない結果として、英語は原形と同じ形の活用形が非常に頻繁に使われることになります。上記の例でもお分かりのように、フランス語でもスペイン語でもイタリア語でも原形と同じ形の活用形はほぼありません。従って、他の言語では動詞の原形をそのまま不定詞として使っても誤解がないのに対し、英語では不定詞であることを示すために「to」を前に置くことが必要になるのです。不定詞の問題については別の記事(「不定詞の定まりどころ」)で詳述していますので、そちらをお読みいただきたいのですが、この結果、不定詞が他の前置詞と結びついて多様な意味を表すことができない分、英語では「動名詞」に大きな比重がかかることになります。そして、「不定詞」と「動名詞」の使い分けに学習者が頭を悩ませることになるのです。

また、「I can speak English」という文の「speak」を不定詞と捉えることができなくなり、「can」を「助動詞」という「動詞」とは別の品詞として扱わなければならないことになります。更に英語は活用形としての「未来形」がありませんから、未来に関する記述については「will」という「助動詞」に依存せざるを得ません。また、他の言語では英語の「go」に当たる語を使って「近接未来」を表すと、「未来形」との間で明確な区別ができますが、英語では「will」と「be going to」の守備範囲が甚だ曖昧です。

動詞の活用が少ない言語の必然

 英語は助動詞の比重が甚だ重い文法構造になるので、助動詞を伴う文が文法上の標準になっているのではないかと思える節があります。かくして、一般動詞の疑問文や否定文では、突如「do」が現れて、「助動詞」として機能することになります。英語の「do」に当たる動詞(フランス語「faire」、スペイン語「hacer」、イタリア語「fare」)は、当然それぞれの言語における主要動詞で、様々な意味や機能を担いますが、英語の「do」のように頻繁に表れてくることはありません。さらに、この「do」は完全に「助動詞」として機能していながら、「動詞」としての性質を残していて、英語における僅かな人称による活用「三・単・現のs」を伴って「does」に変わったりするのが、また厄介な所です。

 以上、私なりの勝手な整理について述べてきましたが、英文法の様々な特徴を「動詞の活用が極端に少ないが故の必然」として捉えることで、ややこしい英文法が少し構造的に見えやすくなるのではないか、というのが私からの提案です。

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です